あなたは罪人と共存できますか?映画「羊の木」レビュー

尊敬する滝本哲史氏が亡くなってしまった。
形はどうであれ、命はいつか尽きる。それだけは平等。

あまり時間を無駄にしたくないと思うと、ついつい評価や好みを基準に作品を選んでしまう。でも無難な線を狙ってばかりいると退屈してくる。
たまには冒険!ということで関ジャニ∞錦戸亮主演、「羊の木」でございます。

作品概要

羊の木

制作:日本、2018年
監督:吉田大八(鹿児島県、1963~)
脚本:香川まさひと(神奈川県、1960~)
撮影:芦澤明子(東京都、1951~)
メモ:「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が放つ、再生に向かう人々の明と暗。

あらすじ

過疎化の進む港町・魚深(うおぶか)で働く市役所職員の月末(つきすえ)は、移住してきた6人の男女の受け入れを命じられた。一見普通だがどこか奇妙な6人。実は、節税のために受刑者を仮釈放し、過疎化が進む地方に住まわせるという、国家の極秘プロジェクトが実施されていた。それぞれ抱えた過去を隠しながら、町に馴染もうと努力する者、何かを企む者…戸惑いながらも彼らを受け入れようとする月末だったが、次第に不穏な空気が町に漂い始め―

映画『羊の木』予告編

登場人物

月末 一(錦戸 亮)
魚深で生まれ育ち、市役所職員として真面目に働く青年。他人に親切で、6人が元受刑者だと知った後も普通に接するように心掛けている。高校時代からのバンド仲間である文に密かに思いを寄せている。

石田 文(木村 文乃)
月末の友人で、クールで気の強い女性。千葉で働いていたが、魚深に戻りスナックで働いている。バンドを見学に来た宮腰と付き合い始める。

宮腰 一郎(松田 龍平)
移住してきた6人のひとりで、宅配ドライバーとして働く。自分の過去を知りながら親切にしてくれる月末に懐き、バンドに憧れてギターを始める。

杉山 勝志(北村 一輝)
移住してきた6人のひとりで、船乗りとして働く。典型的な悪人で、すぐに魚深での暮らしに退屈を感じ始め、“仲間”探しを始める。

福元 宏喜(水澤 紳吾)
移住してきた6人のひとりで、理髪師として働く。無口で不器用な男性。

太田 理江子(優香)
移住してきた6人のひとりで、介護施設で働く。極度の恋愛体質で、施設で見かけた月末の父親に一目惚れし、思わずアプローチしてしまう。

大野 克美(田中 泯)
移住してきた6人のひとりで、クリーニング店で働く。暴力団から足を洗い、不器用ながらも真面目に生活しているが、顔に残った傷のせいで住民から恐れられてしまう。

栗本 清美(市川 実日子)
移住してきた6人のひとりで、清掃員として働く。ほとんど人と話さず静かに暮らしており、動物の死骸を家の外に埋めている。

記憶に残るシーンてんこ盛り!神的バランスのダーク寄りヒューマンドラマ。

過疎化に悩む町が元受刑者を住民として受け入れるプログラム…という少しショッキングな設定の本作。

山上たつひこ原作・いがらしみきお画の同名マンガ(2011~2014年に講談社「イブニング」で連載)が原作で、この漫画は第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞したそう。
原作では受け入れる元受刑者の人数が11人のところ映画では6人になっていたり、かなりの改変が加えられているようです。

で、この映画では、田舎の港町・魚深に、村山、宮腰、福元、大野の男性4人と、太田と栗本の女性2人がやってきます。
彼らの過去を知っているのは月末と課長だけという状態で、みんな穏やかに生活していけるのか?彼らの事情を知り、不安を感じつつも受け入れようとする普通に良い人な月末。

前半は月末といっしょに絶妙な不安を抱きながら、6人の新生活を見守っていきます。そして町の一大イベント「のろろ祭り」をきっかけに何かが崩壊してしまう。
後半はサスペンス要素が強くなり、「ヒメアノ~ル」のように2つの味が楽しめる映画で満足度高かったです。

6人の動向も気になるけど、のろろが何なのかも気になる…

この「のろろ祭り」、ストーリーの転換点になるんで超重要です。
そしてなんといっても、祭りの描かれ方がめちゃくちゃかっこいいんですよ!!!

のろろ様は、魚深の岬に立つ巨大な偶像のこと。半魚人のような見た目で不気味すぎる。
のろろ様は昔海から来たバケモノのようなもので、住民との戦いで負けてからは守り神として魚深を守ってるんだそう。住民たちは「のろろ様を見てはいけない」という言い伝えを守り、のろろ様の偶像を見ないようにしている。しかし新しい住人の6人のうち数人はのろろ様をガン見。そしてのろろ様もどこか、彼らを監視しているように見える…。

ってな感じで怪しい雰囲気を放ちまくっているのろろ様を町に迎えるのがのろろ祭り。
この描写がほんとにね!!最高です!!

見てはいけないのろろ様が町を練り歩くということで、「住民の方は家に入りましょう」なんて放送が流れ、道路は完全なる無人で無音。のろろ様(に扮した人)が通る道は全面通行止めで、静かに信号が明滅している。
のろろ様の後ろには、白装束に身を包んだ町の男たちが列をなし、「のろろ~」と言いながら町を回ります。これに参列していた村山・宮腰・福元・大野のうち、村山は途中で離脱。のろろ祭り全体が後半の展開を暗示していて、すごく印象的でしたね~。

このお祭りを境にある人物の本性が明らかになっていき、ついに事件が発生します。
港でのシーンはまさに衝撃映像…予想を上回るショッキングな行動に思わず「えぇ⁈」と目を疑ってしまいました。

もちろんラストシーンもすごく鮮烈。いや~吉田監督すごいっすね!
あと、優香の演じる太田のシーンはどれも、違う意味で記憶に残りました。女から見てもエロいし危うい!太田が友達だったら心配でしょうがないだろうなぁ(笑)

魅せるシーンが多くて面白そう。陰気な社会派ドラマではないんだね。

そうそう。邦画にありがちな安っぽい社会派ドラマだったら嫌だな~と不安だったけど、完全に杞憂でした。

元受刑者たちが犯した罪は十人十色で、自身の過去に対するスタンスも色々。
もし映画全体で6人の描かれ方が統一されていたら、犯罪者とそうじゃない者という安易な構図になって全く面白くなかったはず。

6人も、月末を始めとする住人も同じ数直線の上にいて、6人がそれぞれ違うように私たちもそれぞれ違う。
何の押し付けがましさもないフラットな状態だからこそ、自分は果たしてどの辺りにいるんだろうと思わず考えてしまいました。

ここで要になっているなぁと感じたのが、月末の“普通さ”。描かれ方のバランスがすごく良かった。
誰に対しても完全に突き放すことはせず、ただ悩みながらも「ここまでは理解できる、ここからはできない」と自分で線引きする。それを誰に押し付けることもないし、差別もしない。かといって完全に理性的なわけでもなく、思わず「怖い」と感じてしまうこともある。

ラストの岬のシーンでは少しキレイごとに寄り過ぎた感があるけど、個性的な6人を相手にする人間のキャラとしては最適な“普通さ”でした。
いやはや、アイドル錦戸がこんなに地味な役を演じられるとは!良い驚きをありがとうございます。

まとめ

ハッキリとした善悪を押し付けようとしてくる昨今のイヤ~な風潮。
月末くんと一緒に戸惑いながら自分の立ち位置を確認しつつ、松田龍平の演技力に度肝を抜かれるのでした。

ちょっとした話

この吉田大八監督、名前を聞いた記憶があると思ったら、「桐島、部活やめるってよ」の監督なんですね! わたしの大好きな映画「クヒオ大佐」(2009年)では、本作の脚本を手掛けた香川まさひと氏とタッグを組んでいました。
これは好きな監督を見つけたかもしれない!!

「桐島~」は評判が良すぎてなんとなく避けていたんだけど、勇気を出して(?)見てみようかなぁ。

映画『桐島、部活やめるってよ』予告編

青春時代にひねくれてたから、青春ものが苦手なんだよね。

コメント

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