
はい、サム・メンデス監督です!
“Revolutionary Road”で夫婦の崩壊をドぎつく描いたメンデス氏に、今度は家族のドぎつい崩壊を見せていただきました。(過去記事はこちら)
作品概要
アメリカン・ビューティー(原題:American Beauty)
制作・公開:米国、1999年
監督:Sam Mendes(英国、1965~)
脚本:Alan Ball(米国、1957~)
撮影:Conrad L. Hall(米国、1926~2003)
メモ:多数の映画賞を受賞した名作。アメリカの豊かさを盛大に皮肉った、サム・メンデス監督デビュー作。
<受賞>
・第72回アカデミー賞 作品賞・監督賞(サム・メンデス)・主演男優賞(ケヴィン・スペイシー)・脚本賞(アラン・ボール)・撮影賞(コンラッド・L・ホール)
・第57回ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門)・監督賞 (サム・メンデス) ・脚本賞(アラン・ボール)
・第53回英国アカデミー賞 作品賞・ 主演男優賞(ケヴィン・スペイシー)・ 主演女優賞(アネット・ベニング)・作曲賞(トーマス・ニューマン)・撮影賞(コンラッド・L・ホール)・編集賞
その他
あらすじ
42歳のレスター・バーナムは、広告代理店での仕事を失う寸前で家庭でも立場がない。不動産業者の妻キャロラインは、それなりに家庭に気を遣ってはいるものの、仕事で成功したいという思いで頭はいっぱい。一人娘のジェーンは思春期真っ盛りで、親を疎ましく感じており、親友の美少女アンジェラに対してコンプレックスを抱いている。またジェーンは、隣に引越してきたフィッツ家の一人息子リッキーに執着されていることを嫌がりつつ、密かに喜んでもいた。
ある日、レスターはキャロラインと共に、ジェーンのチアリーディングを見に行く。そこで彼はアンジェラに目を奪われ、性的な妄想を抱くようになる。
登場人物
レスター・バーナム(Kevin Spacey)
“中年の危機”真っ最中のうだつの上がらない広告マン。家計を支える妻には頭が上がらず、娘からも毛嫌いされている。娘の友人アンジェラと知り合ってから性欲を取り戻してタガが外れ、自ら退職したり家庭で強気な態度をとったり、人が変わったように振る舞い始める。
キャロライン・バーナム(Annette Bening)
レスターの妻。家庭がうまくいっているように見せかけるために一応の気遣いはしているものの、夫には愛想を尽かしており、娘にも真剣に向き合っていない。不動産業者として成功することが第一で、地元の不動産業界でトップに君臨するバディ・ケーンに教えを乞うために接近し、不倫関係となる。
ジェーン・バーナム(Thora Birch)
典型的なティーンエイジャーで、両親のことを疎ましく感じている。容姿にコンプレックスを抱いており、美しいアンジェラに対して劣等感をもっている。リッキーに隠し撮りされることを嫌がっていたが、アンジェラに目もくれず自分に執着する彼に対して好意を抱き始める。
リッキー・フィッツ(Wes Bentley)
バーナム家の隣に越してきたフィッツ家の一人息子。ビデオが趣味で、美しいと思ったものを録画したテープを大量に保有している。海軍出身の厳格な父には逆らうことが許されず、敬語で話す。その一方、大麻の売人をして大金を稼いでいる。ジェーンに興味を抱き盗撮している。
アンジェラ・ヘイズ(Mena Suvari)
ジェーンの友人。典型的なブロンド美女で、自分が男に注目されるのは当然だと思っている。ジェーンや同級生に対して男性経験の豊富さを自慢してマウンティングをとり、友人の父親であるレスターに対しても性的関心を見せる。
笑いとドン引きに満ち溢れた、ブラックユーモアたっぷりの家族崩壊劇!
Revolutionary Roadもかなり強烈だったけど、こちらもかなり強烈でした。
自分を見失って虚勢を張る人間って、こんなに滑稽なんだなぁ…と思い知らされた。めちゃくちゃ面白かったです。
ジェットコースターの勢いで崩壊していく家族が面白くも虚しい
この映画、ジェーンがカメラに向かって愚痴っているシーンから始まります。
尊敬できる父親がほしいの。
娘の友達を見るたびに、パンツの中に発射しちゃうような変態じゃなくて。
この時点で、「え?今何て言った?」と耳を疑いたくなる展開。え、ケヴィン・スペイシーまさかのロリコン変態役??と、初っ端から強烈な一発でした。
その後レスターのナレーションと共にタイトルバック。そして、微妙に体のたるんだ中年男レスターがシャワーを浴びながらこっそり自慰行為に耽っているという、なんとも情けないシーンを見せつけられます。この時点で、かなりキてるなこの映画…と苦笑いしてしまいました。
レスターのどうしようもない姿を見た後は、お庭でアメリカン・ビューティーという品種の真っ赤なバラを摘みながら、ご近所のカップルと楽しげに会話するキャロラインの姿。そんな彼女の外面のよさに、レスターはとっくにウンザリしています。
そして不機嫌そうなジェーン。女としての魅力をダサい服に封じ込めながらも、豊胸手術を夢見ているらしい。そして両親には素っ気ない態度。あぁ、思春期ってそういう時期ですよねぇ。
と、開始2分も経たないうちに、この家族の信頼や安心というものは失われているんだな、ということがよく分かります。
日常の様子こそ、家族の真の姿を映し出すんですね。このスピード感、秀逸です!
スタートがこんな感じなので、レスターがアンジェラに出会った後や、キャロラインがバディに出会った後に転がり落ちていくのも物凄く速い。
連ドラで十数回に分けて見せられるような濃い~家族崩壊を2時間で見せるんだから、余計なものは削ぎ落してスピーディーにするしかないですよね。
余計なものが削ぎ落されているといえば、この映画、登場人物の言葉や行動がとにかく直接的です。だからこそ展開のスピードもすごく速い。
アンジェラがジェーンに「あんたのパパとヤりたい」と言ってからかうシーンや、キャロラインが憧れの不動産王と不倫セックスするシーンなど、邦画ではなかなか見られない下品さ(笑)
まぁそれがアメリカらしいといえばアメリカらしいのかもしれないけど…失礼かな…。
ジェーンがつなぐ、陽の家族と陰の家族
この物語の中で、比較的ふつうなのはジェーンなのでは。容姿にコンプレックスがあって自信はないけど、だからこそ自分を見てくれる男子がいるとちょっと嬉しい。けっこう嬉しい。どんどん嬉しい。あなたは特別な人!好き!みたいな、よくあるやつ。
劣等感と承認欲求を抱えた、ふつうのティーンエイジャーですよね。
そんなジェーンの両親は、みるみるうちにおかしくなっていく。
父レスターは仕事を辞めてハンバーガーショップ店員になり、娘と同い年のアンジェラに好かれるために筋トレに励み、リッキーからハッパを買って昼からハイになる始末。母キャロラインも、家族に嘘をついて不倫セックスに夢中です。
セックスやらハッパやら、やたら開放的な雰囲気で崩壊していくのがバーナム家。
一方、ジェーンが徐々に惹かれていくリッキーの家は、あらゆる欲望が抑圧されているように見えます。
リッキーが死に魅せられていることからも分かるように、生を謳歌している雰囲気が全くありません。お母さんなんて生きる屍のよう。
やたら開放的になればいいわけでもないし、自分の欲求を抑え込めばいいというわけでもない。
ちょうどいいバランスって難しいなぁ…と苦笑いしながら考えてしまいました。
目を覚ました後に見えるものは…(一部ネタバレ)
勢いよく破滅に向かうバーナム家と、じわじわと腐っていくフィッツ家。
レスターとリッキーが何やらよくない関係にあることにリッキーの父が気付き、物語は一気にクライマックスを迎えます。
最後の夜。レスターは遂にアンジェラとセックスする機会を得ます。しかし実は彼女が処女だと知り、ふっと我に返る。(憑き物が落ちたようなケヴィン・スペイシーの演技!!さすがですわー。)
おかしな性的妄想から覚めた今、レスターにはもう何も残っていません。キャリアもないし男としてもほとんど終わっている。妻や娘との関係は最悪。じゃぁ何が大事なんだろう。
すべてを失ってやっと大切なものに気付いたレスターは、穏やかな笑みを浮かべる。一方キャロラインは、まだ自分の利益に執着していて追い詰められた表情をしています。
この映画のラストを見ると、幸せ探し=自分探しがどれだけ難しいかを痛感します。
自分の思うとおりに突き進んで見つかればいいけど、我に返ったときには手遅れ…ということもある。特に、男らしさや女らしさ、人種や性的嗜好、仕事や生き方など、何かしらの“こうあるべき”に囚われたまま暴走するのは危険ですよね。それってほとんど他人が勝手に決めたことだから。
それでも、間違った道を通ったからわかることもあるし。本当に難しいですねぇ、人生って。
まとめ
お金やモノ、「こうあるべき」など、世の中にはさりげなくたっくさんのプロパガンダが溢れています。
そういうものに洗脳されたくないなぁ…とつくづく思いました。映画や小説って、色んな人生を疑似体験さえてくれるから、本当にありがたい!
なんだか生きづらいと感じている人、「アメリカン・ビューティー」おすすめです!
映画評論家・町山さんの解説を見ると、より映画を楽しめます!
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