家族に忍び寄るものの正体とは?「ヘレディタリー」感想

宇多丸さんが「めちゃくちゃ怖い」と大絶賛していたので、期待大で見に行きました。

作品情報

ヘレディタリー/継承(原題:Hereditary)

製作・公開:米国、2018年
監督:Ari Aster(米国、1986~)
脚本:Ari Aster
メモ:祖母を亡くしたグラハム家が直面する“悪夢”の物語

あらすじ

ミニチュアアーティストのアニー・グラハムの母エレンが死去した。アニーは、支配的で秘密主義の母とは折り合いが悪く、母の死去にもあまり悲しみを感じていなかった。一方、13歳の娘チャーリーはエレンに溺愛されていたので、「これから誰が面倒を見てくれるのか」と不安を漏らす。
エレンの死後、グラハム家では、アニーがアトリエでエレンの幽霊の存在を感じたり、チャーリーが何かに引き寄せられるように敷地内の小屋に向かったりと、異様な現象が起こるようになっていた。そして葬儀から1週間後、アニーの夫スティーブンは、エレンの墓が荒らされたとの連絡を受ける。
ある日、16歳の息子ピーターは、友人宅で開かれているパーティに行くためにアニーに車を貸してくれと頼む。アニーは、チャーリーを連れて行くならと条件を付ける。行きたくないと嫌がっていたチャーリーも渋々承諾し、パーティに向かうピーターとチャーリー。そこでチャーリーは、ケーキに入っていたナッツにアナフィラキシーショックを起こし、呼吸困難に陥ってしまう。

受け継いだら死ぬ…映画『へレディタリー/継承 』本予告編

登場人物

アニー・グラハム(Toni Collette/トニ・コレット)
ミニチュアアーティスト。父と兄は精神疾患を理由に死亡、母エレンも精神疾患を患っており、アニー自身も夢遊病を患っている。作製するミニチュアは、自身の体験やトラウマを投影したような作品が多い。

チャーリー(Milly Shapiro/ミリー・シャピロ)
13歳の長女。祖母エレンに溺愛されて育ったためエレンの死にはショックを受けており、奇妙な行動をとるようになる。絵を描くのが得意。舌を鳴らす癖がある。

ピーター(Alex Wolff/アレックス・ウルフ)
16歳の長男。ごく普通の高校生であるが、幼いころ、夢遊状態のアニーが起こしたある出来事で心に傷を負っている。車を借りて行ったパーティで重大な事故を引き起こしてしまい、異常な現象に悩まされるようになる。

スティーブン(Gabriel Byrne/ ガブリエル・バーン)
アニーの夫で、ピーターとチャーリーの父親。精神科医であり、超常現象などは信じていない。アニーとピーターを支えようとするが、うまく行かず途方に暮れる。

エレン・リー(?)
アニーの祖母。解離性同一性障害を患っており、晩年は認知症も患った。支配的で秘密主義であり、アニーとの仲は悪かった。ピーターが生まれた際にアニーがエレンを遠ざけたため、2人目のチャーリーを溺愛するようになった。

現代の病理をたっぷり含んだフレッシュなエクソシスト

無駄と思えるシーンがないので、127分間みっちり堪能しました…疲れた…(笑)

穴だらけの家庭に入り込む禍々しいもの

「何かに取り憑かれる」というのは、ホラーものでは定番中の定番ですよね。
無宗教の人が多数を占める日本では、昔から幽霊が定番。最近でいえば貞子も伽椰子も幽霊です。一方、宗教が根付いている欧米では悪魔もよく出てきます。かの有名な「エクソシスト」もそのひとつ。

本作では、グラハム家は、幽霊なのか何なのかよく分からないものに取り憑かれます。正直言って、どういう展開になるのか全然わかりませんでした!相手が何なのか分からないって、こんなに神経がすり減るんなんだなぁ。

しかも、アニーはとある事情で狂気の沙汰だし、ピーターは怯えきっているし、スティーブンは途方に暮れているという、とても誰かが問題を解決できそうな雰囲気ではない。見ているこっちも途方に暮れました(笑)。

この物語の肝は、取り憑いているものというより、家庭が崩壊しているという事実だと思います。

アメリカのホラー映画といえば、大体はオカンが奮起して子どもを守る!そして勝つ!ってイメージ。少なくとも母親はしっかり子どもを愛している、というのが一般的です。

だけど、アニーはどうも不安定に見える。彼女は、非常にメンタルの弱い家庭で育っていて、家族が精神疾患で死んでいったことになんとなく罪悪感を抱き続けているわけです。母親との関係も最悪だった。そして自分も夢遊病を抱えている。この物語には、愛情深くて強い母親という安心材料は存在しないのです。

また、古くは悪魔憑きと思われていた現象は実は精神疾患だった、というのが現代の通説。逆に、精神疾患に支配されていたアニーの家族には強大な悪魔が憑いていた、と考えると、生前のエレンがしていたことにも多少納得はいくような…いかないような…(笑)

表向きは普通の家庭であっても、グラハム家、特にアニーとピーターの関係はとっくに崩壊しています。そして決定的な事故が起こり、溜まっていた膿がついに噴出する。その大きな穴に、禍々しいものは易々と入り込んできます。

崩壊していたところに憑き物が入り込んでくる、という点では、「ぼぎわんが、来る」に通じるものがありますね。

という感じで、本作は古典的な憑依ものに、精神疾患と家庭崩壊という現代的なテーマを組み合わせています。わたしは個人的に悪魔ものはダメなんですけど、だいぶ見やすかったですね~。

トニ・コレットの顔芸がホラー表現を引き立てる!

本作の見どころは、アニー役のトニ・コレットの顔芸です(笑)

スクリーンであの鬼の形相を見ると、「本当に何か憑いてるんじゃ…」と不安になります。さすが賞レース常連の女優さん…と感嘆しました。

特に、食卓でピーターに本心をぶちまけるシーンは、本気で怖いです。ピーターが泣いちゃうのも分かるわぁ…あんなお母さんやだ!

本作のホラー表現は、カメラワークと音響が絶大な効果を発揮しています。

降霊術だったり「部屋の中に何かいる」だったり、基本はかなり古典的なもの。しかーし、音の入り方や切れ方が絶妙で、それだけでもうわっと思う箇所がたくさんありました。特に、チャーリーの舌を鳴らす音がもう…。

シーンの切り替わり直後のカメラの入りも、「何が起こってるの?」という不安を掻き立てるのに抜群の効果です。
あとは、暗闇の中にうっすらと人が見える…しかもニヤついてる…。ひとりで家にいるときに思い出さない方がいいと思います(笑)

ホラー映画の新たな金字塔になるか?

個人的には、怖さはそこまでではなかったかなぁ。たしかに不気味で不穏なんだけど、心の底から怖い!とは思わなかった。もともと欧米の憑き物系はほとんど怖いと思わないタイプで、エクソシストなんて「痛そう、苦しそう」としか思わなかったくらい。なので、どのくらい怖いと思うかは人によると思います。
わたしには、家族ドラマとしてのインパクトの方が大きかったです。食卓のシーンがとにかく恐ろしい…。

ただ、127分という、ホラーとしては長尺にみっちり伏線を張り巡らしてるのは凄いと思いました!
わたしは途中に少しテンションが下がってしまって退屈してたんだけど(苦笑)、クライマックスの怒涛の展開にはかなりショックを受けました。どういうオチになるのか最後まで引っ張られたし、サスペンスとして楽しむこともできると思います。

本作の監督アリ・アスターさんは、なんと本作が長編映画デビュー作!プロの評価はすこぶる高いようだし、今後のホラー界を引っ張っていく存在になりそうです。現在制作中の次回作“Midsommar”も楽しみですね~。

まとめ

どこに恐怖を感じたか、見た人どうしで語り合うのも楽しいと思います。それくらい中身の濃いホラー映画です。
アニーの鬼の形相をぜひ大画面でどうぞ!(笑)

ちょっとした話

本作の監督アリ・アスターさんは、AFI Conservatoryというハリウッドの映画学校を卒業後、2011年に“The Strange Thing About the Johnsons”という短編作品でデビュー。その後ヘレディタリーまで、ずっと短編を撮り続けてきたようです。

“The Strange Thing…”も家族を描いた作品。日本語訳はないですが、英語字幕を頼りにチャレンジする価値はありそうです。

The Strange Thing About The Johnsons

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