悔恨を抱いた元刑事の生き直しの旅―柚月裕子『慈雨』レビュー

7月に映画「孤狼の血」を観てから、原作者・柚月裕子さんの作品てどんな感じなんだろ~と気になっていました。(「孤狼の血」のレビューはこちら

で実家に帰ったら、おかんのブックタワーの中にこの本を見つけたので、サクっと4時間くらいで読んでみた。

作者概要

柚月 裕子(ゆづき ゆうこ)

1968年岩手県生まれ。山形県在住。2008年、『臨床真理』で『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビュー。’13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞。他の著書に『最後の証人』『検事の死命』『蟻の菜園―アントガーデン―』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』がある。

<受賞歴>
・2008年第7回「このミステリーがすごい!」大賞 :『臨床真理』(KADOKAWA)
・2013年第15回大藪春彦賞:『検事の本懐』(KADOKAWA)
・2016年第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門):『孤狼の血』(KADOKAWA)
・2018年本屋大賞2位:『盤上の向日葵』(中央公論新社)

作品概要

慈雨

発行:集英社文庫、2019年(2016年発行の同名単行本を文庫化)
ジャンル:小説
メモ:無残に殺された幼女の遺体が発見された。刑事を引退した男が辿り着く衝撃の真実とは…

警察官を定年退職した神場智則は、妻の香代子とお遍路の旅に出た。42年の警察官人生を振り返る旅の途中で、神場は幼女殺害事件の発生を知り、動揺する。16年前に発生した、自らも捜査に加わり犯人逮捕に至った事件に酷似していたのだ。神場はかつての部下・緒方に連絡を取り、電話を通じた捜査協力を申し出る。

情緒あふれる四国お遍路で描かれる、 男の“生き直しの旅” 。

元刑事が事件を通じて過去と向き合う。この設定には別に何の新しさも感じないけど、主人公の神場がお遍路の旅をしているというのは斬新でした。

神場は引退しているし、四国で妻とお遍路さんをしているわけだから、どう頑張っても直接的には捜査に加われない。そこで彼は部下の緒方を通じて、信頼関係のある捜査一課長・鷲尾の許可をもらい、電話で捜査協力することになります。

変則的な“安楽椅子探偵”って感じだね。

そう、神場がやってることは完全に安楽椅子探偵! 現場を見ることも現場に行くこともなく、得られる情報からだけから真実を暴き出すというやつ。

でもこの本の魅力は謎解きではなく、丁寧に描かれた四国お遍路の情景と、神場のキャラクターにあります。

神場は朴訥な男で、派手さはないけど確実に他人の信頼を勝ち得ることのできる人柄。過去には警察官として苦汁をなめた時期もあるけど、誠実に仕事をする姿勢が評価されて異例の出世を果たした。そんな彼が、胸に刺さったままの棘と向き合い、過去を乗り越えていく様子は、胸に迫るものがあります。
この人間ドラマを支える要素として、お遍路の旅という設定がうまく機能していましたね~。

ミステリやサスペンスというより、人間ドラマが濃いんだね。

そうだね、むしろサスペンスとしてはあまり面白くない(笑)。

事件関係の真実は、慣れてる読者なら簡単に予測がつくレベル。
緒方視点で警察の状況が描かれるのは中盤以降だし、彼らが大きな新事実を掴むことはないんで、いまいち緊張感やスピード感がない。四国お遍路の空気感からの切り替えがうまくいってないと感じました。

あと気になったのは、終盤に向けて文章が冗長になっていること。どうでもいい説明的な文章が多くて、ただでさえ宙ぶらりんな緊張感の中でさらにスピード感を削いでいます。

ラストの神場&鷲尾の決心は重大だし大きなドラマであるはずなんだけど、それまでに失速しているのでこっちの気分が乗らず、微妙な距離感が生まれて「うーん…そっか…」という気分でした。
すでに引退したおっさん&引退間近のおっさんはそれでいいかもしれないけど、残される緒方はどうなるんだよ、と(笑)。正義感に酔っているようにしか見えなかったのが残念。

湊かなえの『ポイズンドーター・ホーリーマザー』、中村文則の『教団Ⅹ』でも同じことを言ったんだけど、作者の姿が透けて見えるような演説じみたことを小説でするのは、本当にやめてほしい!萎える!めちゃ萎える!
世の中で起こっていることに主張をもつのは勝手で、それをテーマに小説を書くのも勝手なんですけど、ストーリーにうまく組み込んでくださいお願いします…小説の世界に没頭しているときに、作者の顔がひょこっと出てくることほど萎えることはないですよ!どんな大物作家でもね!

まとめ

残忍な事件の捜査ものというよりは、“元刑事の最後の捜査”というヒューマンドラマとして楽しむのがオススメ。

四国お遍路、いつかやってみたいなぁ。

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