「らせん」に続くリングウィルスとの闘い「ループ」感想&ネタバレ

「リング」「らせん」の次は「ループ」。
どんどん壮大になっていく~!

作者情報

鈴木 光司(すずき こうじ)

生まれ:1957年静岡県
経歴:慶應義塾大学文学部仏文科卒業。大学卒業後は専業主夫をしながら自宅で学習塾を開き、1人で全教科を教えながら小説を執筆する。デビュー作の「楽園」が日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞、次作「リング」でジャパニーズホラーブームの火付け役となった。その続編である「らせん」は第17回吉川英治文学新人賞を受賞、2013年には「エッジ」で米国のシャリー・ジャクスン賞を受賞している。父親をテーマにしたエッセーも多く発表している。

代表作:「リング」シリーズ、「仄暗い水の底から」(角川書店、1996年)

<受賞作>
楽園(新潮社、1990年):ファンタジーノベル大賞優秀賞
らせん(角川書店、1995年):第17回吉川英治文学新人賞
エッジ(角川書店、2008年):2013年シャーリイ・ジャクスン賞(The Shirley Jackson Awards)長編部門

作品情報

ループ
発行:角川書店、1998年
ジャンル:小説
<どんな本?>リングシリーズ第3弾。人類を脅かす転移性ヒトガンウィルスの正体とは?

あらすじ

二見馨(ふたみ かおる)は、10歳の少年ながらすでに数学や科学の才能を開花させており、ある日重力異常地帯と長寿村の位置が重なっていることに気付く。馨は、優秀な科学者である父・秀幸と、民俗学に精通する母・真知子にその発見を報告し、北米の砂漠地帯にある長寿村に3人で旅行しようと約束する。北米への旅行は、秀幸の仕事の都合で3年後に延びた。しかし、旅行の直前、秀幸がガンに侵されていることが判明する。
馨が医大生になったころ、秀幸は度重なるガンの転移と手術により、見る影もなく衰弱していた。そして、秀幸と同様の転移性ガンが日本とアメリカを中心に蔓延していることが分かり、このガンを引き起こすウィルスは「転移性ヒトガンウィルス」と名付けられた。馨は、かつて秀幸が熱意を燃やしていた「ループ」プロジェクトのメンバーのほとんどが転移性ヒトガンウィルスに感染し死亡していることを知り、父が多くを語らない「ループ」の実態を知るべく動き出す。

リングウィルスとの衝撃のつながり―「らせん」と交わる壮大なSF小説!

たしか小学校高学年か中学生のときに読んだんだけど、あの頃はきちんと理解してなかったんだということが理解できたくらいに、新鮮な驚きと感動がありました(笑)
当時はリングもらせんも映画を見ただけで満足していたから、この2作とループがカチッと繋がらなかったんですね。やっぱりシリーズものは最初から読まないと…。

作者の発想力に脱帽の展開

「リング」の発表が1991年、続く「らせん」の発表が1995年。そして「ループ」は1998年。前作から3年かかった大作です。
というのも、この3作はシリーズ化を前提として構成されていたのではなく、「らせん」も「ループ」もその前作を書き終えたときには作者の頭の中になかったんだそう。

…小説を書くことはひたすら祈り続ける作業であるような気がする。物語を意識的に徐々に構築していくのではない。頭上近くに浮遊する物語を腕力で強引に引きつけ、自分の身体を通して吐き出すのが、ぼくにとっての小説を書くという作業である。

「あとがき」より引用

作者は、物語の舞台として漠然と決まっていたアメリカの砂漠地帯と、下調べのために読んだ科学書にあったクリストファー・ラングトンの記述の中で、偶然にも「ループ」という言葉に出会った。その言葉こそ、作者が頭の中にあった第3弾のタイトルだった…という、まるでフィクションのようなエピソードを語っています。
頭の中にある大事なことがあると、それに関連する情報をキャッチしやすくなりますよね。鈴木氏は、そのレーダーの感度が異常値を示しているんじゃないかと(笑)

多少粗削りに感じる部分はあるけど、まさに強引とも言えるパワーで読者を引き込むところはさすがです。

自然と人工生命…強烈なコントラストから生まれる壮大なSFミステリー

この作品で印象的なのは、圧倒的な迫力をもって描かれる大自然と、ループプロジェクトで扱う人工生命との対比です。


<この先ネタバレあり>

ループプロジェクトは、コンピュータ上の仮想空間にRNA情報という“生命”の種をまき、その世界や生命の進化を観察して分析し、そのデータを実際の科学分野だけでなく経済学や社会学などにも応用しようというものだった。すなわち、人工生命がループの世界を作り上げていたのである。
ループの世界は、1990年頃までは実世界と同様に進化していた。しかし、突如ヤマムラサダコの呪いが発生し、蔓延したリングウィルスによって世界は均質化して滅亡した。アサカワやタカヤマは、ループ界の“人間”であった。

※この「人工生命」という概念は、1980年代後半にクリストファー・ラングトン(Christopher Gale Langton, 1949-)が提唱したもの。彼が生み出した自己複製プログラムには「ループ」という名前が付けられました。

やっぱりこの展開は衝撃的だった!

「リング」「らせん」と読み進めてすっかり登場人物に愛着をもっていたので、浅川と高山がバーチャル世界の住人だったなんて…!と少なからぬショックが(再読なのに)。安藤が息子を失って嘆き悲しんでいたのも、貞子を抱いちゃったことに気付いて腰を抜かしてたのも、全部バーチャル…なんかひどい…。

で、この世界がもしバーチャルで、秀幸のような科学者たちに自分の一挙一動が観察されているとしたら…?こちらの運命をコントロールする“神”が存在するとしたら…?と考えてみると、タカヤマがとった行動も納得ですよね。

つまり、「そちらの世界に連れていってくれ」と願い出ること。

このタカヤマの願いは聞き入れられました。ループ界での塩基配列情報から遺伝子を合成することにより、タカヤマと同じ遺伝子をもつ人間を人工授精で生み出すという方法で、タカヤマは「観察する側」の世界に生を受けた。これは極めて科学的で、実現しようと思えばできる。
現実でも「死んであの世に…」とか「天国に行くか地獄に行くか」みたいな話がある。死ぬ前に「そちらの世界に連れていってくれ」と頼んだら、タカヤマのように違う世界で“合成”されるかもしれないと思うと、めちゃくちゃ面白い… 。


最終的に、タカヤマはある方法でループの世界に戻されます。まさに生まれ変わり!ラストは全く記憶になかったんで、すっかり感動してしまいました(笑)
2次元空間から3次元空間に生まれ、また2次元空間に戻される…よくある設定かもしれないけど、どちらの空間もみっちりと描かれているから、すごくワクワク感が強かったです。

荘厳な自然。その多様性を破壊するウィルスの恐怖。

SFも壮大だけど、同じくらい緻密かつ壮大に描かれているのが人間の営み、そして地球の自然です。

馨は、ループプロジェクトで秀幸と共に働いていたある研究者を探して、アメリカのウェインスロックという場所に向かう。そこで、ループの一部の世界を“体験”することになる。頭部搭載型ディスプレイとグローブを装着し、ループの世界に入り込んだ馨は、はるか昔の部族の男となり、妻子と仲間と共に安住の地を求めて移動していく。しかし、水を探しに出かけたとき、銃を持った男たちに捕まり、妻子共々殺されてしまった。
その後、ウェインスロックを離れて長寿の秘密がある場所に向かった馨は、過酷な自然の洗礼を受けることになる。

前者はバーチャル、後者は実体験という違いはあるものの、どちらもビシビシと肉体の感覚に訴えてくるものがありました。なんかもう、うわー!って叫びたくなるくらいに、温かさとか痛みとか苦しみが襲いかかってきた。
SFものなのに冷たい感じがしないのは、大きい大きい自然の中で生きている肉体という、体温を感じる部分がすごく多く含まれているからだと思います。

生命や地球を圧倒的な迫力で描くことで、リングウィルスの恐ろしさが際立つ。このウィルスは、世界の多様性を破壊して均一化するものだからです。
均一化された世界とは、例えば、無機質で画一的なデスクがずらっと並べられたオフィス。同じ形状のビルが立ち並ぶ色の無い街。みんな同じ服を着て、同じ生活を送る。そしてその人たちがみんな貞子だったら…。そんな世界が良いか悪いかは別として、わたしは美しくないし面白くないと思う。みんな同じなら、たぶん感情も愛情も生まれないし、生きる意味がない。

この作品はSFなんだけど、テクノロジーへの興奮よりも、この地球と生命に対する畏敬の念が大きくなりました。これもやっぱり、アメリカの大自然のパワーを吸い込んできた作者が、それを作品に吹き込んだからなんですかね。
ラストは、頑張れタカヤマ!!この世界を救うんだ!!と本気で胸が熱くなりました(笑)

まとめ

SFも壮大、肉体感も激烈。こんな小説は出会ったことがない!
「リング」「らせん」を読んでからのほうが感動増し増しなので、ぜひ3作順番どおりに読んでください!

ちなみにいうと、まったくホラー小説ではないので、映画の「リング」「リング2」あたりが好きな人にはかなり違和感があると思います。ほとんどSF小説ですのでご注意を…。

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