がんを操るトリックに恐怖する「がん消滅の罠」感想&ネタバレ

友人が「結構おもしろかったよー」と勧めてくれた。
読もうと思って忘れてたやつ!ということで、さっそく。

著者について

岩木 一麻(いわき かずま)

生まれ:1976年埼玉県
経歴:神戸大学大学院自然科学研究科修了。国立がん研究センター、放射線医学総合研究所で研究に従事。がんセンターでは、モンシロチョウ由来の抗がん蛋白質を研究していたとのこと。現在は医療系出版社に勤務。

受賞歴:第15回「このミステリーがすごい! 」大賞受賞(「がん消滅の罠 完全寛解の謎」)

作品について

「がん消滅の罠 完全寛解の謎」

発行:宝島社文庫、2018年(同名単行本の文庫版)
ジャンル:小説
誕生秘話:実際に昆虫を使った抗がんタンパク質の研究に携わっていた著者が、研究者時代に思い付いたトリックをミステリー小説に仕上げた作品。また、がんについての理解が十分でない日本で、ミステリーを通じて正確な情報を伝えたいという思いもあったとのこと。

作者インタビューはこちら↓

あらすじ

日本がんセンター呼吸器内科の医師・夏目は、生命保険会社に勤務する友人・森川から、不正受給の可能性があると指摘を受けた。夏目から余命半年の宣告を受けた肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金3千万円を受け取った後も生存しており、それどころか、がんが消滅しているという。さらに、同様の保険支払いが4件立て続けに起こっていた。
不審に思った夏目は、変わり者の友人で、同じくがんセンター勤務の羽島とともに、調査を始める。森川の協力も得ながら調べを進めるうち、がんを患った有力者たちから支持を受けている湾岸医療センターの存在が浮上。そのセンターの理事を務めるのは、突然姿を消した夏目の恩師・西條だった。その病院は、がんの早期発見・治療を得意とし、もし再発した場合もがんを完全寛解に導くという。
有り得ないことではないながらも、進行したがんの完全寛解の確率は非常に低い。湾岸医療センターでは、どのようにして高確率の完全寛解を実現しているのか―

「なるほど!」の直後に押し寄せる、「実際にこんなことが起こっていたら…」という怖さと憤りと困惑と。

いやはや、さすがこのミス大賞作品、おもしろかったですね~。

ちなみに「このミステリーがすごい!大賞」はこのミスランキングとは別で、新しい才能の発掘を目的としたコンテストのこと。海堂尊や柚月裕子など売れっ子を輩出しております。

「このミステリーがすごい!」は、ランキングも大賞も投票や審査が読む側の人なんで、売る側の思惑が入りづらいのがいいですよね。どうりで誉田哲也や森博嗣が1回もランクインしたことないわけだ~うんうん(根にもっている)。

このミスから選んだ本で大ハズレはなかったし、信頼できるランキングだと思います。

で本作は、平たく言うと「がんを主題にした医療ミステリー」です。

作者がしっかりとしたバックグラウンドを持っていて、「がんの正しい知識を広めたい」という思いがこもっている作品なので、がんについての知識がなくても大丈夫。ミステリーを楽しんでいる間に、自然と理解できるようになっています。

そうとは言っても難しい…という人は、ネットでがん治療について調べながら読むと、リアリティが感じられて楽しくなるのではないでしょうか。ちなみにわたしはいちおうバイオテクノロジー専攻だったので、興奮しながら一気読みでした!ひゃー!

あらすじを読むと予測できるように社会派ミステリーの側面もあるんだけど、夏目たちの飲み会風景など一般市民の暮らしとの対比のバランスがちょうどよくて、変な重苦しさは感じなかった。ラストは一気に緊張感が高まり、どどどーっと真相が明らかになり、「うわわ~大人って真っ黒…」と大人のくせにビビッてしまいましたね!

決して簡単な話ではないのに停滞したりつっかかったりする部分がなくて、丁寧に真摯に作り上げられた作品なんだなぁと感嘆しっぱなしでした。

この作品の肝は、「このトリック、実現できるじゃん!」というところ。恐ろしいったりゃありゃしないんですよ!

まさしく悪性腫瘍のようなこの悪の集団。もし本当に出てきてもきちんと浄化できるシステムを維持しないといけないですね。完全寛解、とまではいかなくても…

<この先ネタバレ>

如何せん、「培養したがん細胞を注射する」なんて超簡単なんですよね。細胞培養の設備は必要だけど、培養の作業自体は、この小説の中でも素人がやっているように、誰にでもできるようなこと。「この脅迫は現実に起こり得る」という恐怖のリアルさは、今まで読んだ本や観た映画を思い返しても上位に食い込んでくる。

欲を言えば、悪役の西條をもっと深く描いてほしかったかな。科学的な部分はバッチリ決まってるし、西條がやっていることは極悪で超怖いだけに、キャラの張りぼて感が悪目立ちしていたように感じる。

西條先生だけ抜き出して考えてみると、娘の死から判明した妻の不貞にショックを受けたのは分かるんだけど、なぜそれがこの恐ろしい“日本改革プロジェクト”に繋がるのかがイマイチ判然としない。世直しと称して、不倫してる人間に手当たり次第がんを植えるようになる、とかなら分かるんだけど(笑)

このプロジェクトを広義の世直しと見ても、妻の不貞→社会改革はやっぱり飛躍しすぎな印象ですね。もともと悪に対して異様な嫌悪感を示すようなキャラであれば、娘の死&妻の不貞発覚というストレス要因で暴走し始めたというのも頷けるんだけどなぁ。

西條のプロジェクトがもっと明確になれば、さらにのめり込めるミステリーでした。「分からないから不気味」もいいけど、「人格者だと思ってたのにめちゃくちゃサイコだった」のほうが、宇垣視点のおもしろさが増すと思います!(個人的にサイコ好きなのもある)

とにかく、西條のキャラ以外は、本当に面白くて大満足のミステリーでした!

こんなバイオテロのようなことが実際には起こっていないことを願っております…

まとめ

がんという身近な病気を、こんなに面白いミステリーにできるなんて、岩木一麻はタダ者じゃない…2作目の「時限感染 殺戮のマトリョーシカ」もさっそく読むぞ。

バイオに詳しい人や医療従事者だけでなく、がんのこと全然わかんないという人でも十分楽しめると思います。
夏目たちと一緒に謎解きする気分で、完全寛解の謎に挑んでみてください!

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