毒親か毒娘か?湊かなえ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」

この週末は実家に帰っている。母も大のミステリ好きなので、毎回母の本の山をチェックするのが楽しみでもある。

で、見つけたのが、“イヤミス”女王・湊かなえによる毒親物語。

作品情報

ポイズンドーター・ホーリーマザー」(2018、光文社文庫)

※2016年光文社より刊行の単行本の文庫化

女優の弓香の元に、かつての同級生・理穂から届いた故郷での同窓会の誘い。欠席を表明したのは、今も変わらず抑圧的な母親に会いたくなかったからだ。だが、理穂とメールで連絡を取るうちに思いがけぬ訃報を聞き…。(「ポイズンドーター」)

母と娘、姉と妹、友だち、男と女。善意と正しさの掛け違いが、眼前の光景を鮮やかに反転させる。名手のエッセンスが全編に満ちた極上の傑作集!

〈収録作品〉

  1. マイディアレスト 「宝石 ザ ミステリー2」(2012年12月)
  2. ベストフレンド 「宝石 ザ ミステリー3」(2013年12月)
  3. 罪深き女 「宝石 ザ ミステリー2014夏」(2014年8月)
  4. 優しい人 「宝石 ザ ミステリー2014冬」(2014年12月)
  5. ポイズンドーター 「宝石 ザ ミステリー2016」(2015年12月)
  6. ホーリーマザー 書き下ろし

作者情報

湊かなえ(みなと かなえ、1973年広島県生まれ)

2004年より川柳、脚本の投稿を始め、2005年に第2回BS-i新人脚本賞に佳作入選するものの、悔しさを味わい、次は脚本と小説のコンクールで一番になることを目標とする。2007年に「答えは、昼間の月」で第35回創作ラジオドラマ大賞を受賞した後、同年、「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。そして「聖職者」から続く連作集『告白』が2009年、第6回本屋大賞を受賞。デビュー作でのノミネート・受賞は共に史上初。(Wikipediaから引用・編集)

〈受賞〉
第29回小説推理新人賞(「聖職者」2007年)、週刊文春ミステリーベスト10第1位(「告白」2008年)、第6回本屋大賞(「告白」2009年)、第3広島文化賞新人賞(2009)、第65回日本推理作家協会賞短編部門(「望郷、海の星」2012年)、第29回山本周五郎賞(「ユートピア」2016年)

毒親を仕立て上げる毒娘⁈ 流石の湊かなえ視点!

最近よく聞く「毒親」ストーリー。簡単に言えば、「私が生きづらいのは親のせいだと気付いた…親のせいだったんだ…」という話。

この短編集が出来た経緯は、湊さんがインタビューに答えていました。

もともと単発で書かれていたので、「ベストフレンド」は毒親とは特に関係がないし、「優しい人」もそんなに親の影響は強くない。しかし、それ以外は見事にいやーな感じの「親に囚われた娘」たちの物語だ。

「マイディアレスト」「罪深き女」「ポイズンドーター」と、娘視点のストーリーが続く。うんうん、相変わらずいやーな感じ。

というのも、湊かなえ作品は、“普通の人”の暗部にグイグイ掘り下げていくから。完全にイっちゃってる犯罪者だったら、「わたしはここまでヒドくない」と高みの見物ができるけど、湊かなえはそれを許さない。普通の人でも、あなたも、ここまで落ちるかもよ、と囁きかけてくる。イジメのある教室で無関係を決め込む生徒の居たたまれなさに近いかもしれない。

恐ろしいのは、「マイディアレスト」から「ポイズンドーター」まで、毒親レベルはどれも似たようなものなのに、どんどん毒の影響度が軽くなっていることである。

「マイディアレスト」の娘は、男性経験がないことに負い目を感じており、さらには仕事もうまくいかず実家に戻り、ほとんどパラサイトシングル状態である。一方、「ポイズンドーター」の娘・弓香は、抑圧を感じると頭痛に悩まされるものの、女優としてある程度成功している。

そして、「ポイズンドーター」の裏を描く「ホーリーマザー」では遂に、弓香に毒親と糾弾され失意の中死んだ母親のストーリー、そして真の毒親とは何かを突き付けるひとつの事実が語られるのだ。

うわあぁぁぁぁぁ…この順番、さすが湊かなえ…

と思わずにはいられなかった。「毒親」という、一方的な子ども目線のブームに警鐘を鳴らすラストだ。

毒親、毒になる親という言葉は、1989年にアメリカのセラピストSusan Forwardが著書“Toxic Parents, Overcoming Their Hurtful Legacy and Reclaiming Your Life”で初めて使った言葉とのこと。「子供に対するネガティブな行動パターンが執拗に継続し、それが子供の人生を支配するようになってしまう親」を指す。(肉体的暴力や性的虐待はダメージの大きさから、1回でも毒親になるとされる。そりゃそうだ。)

親も人間だから、時々怒鳴ってしまったり酷いことを言ってしまったりはある。なので、そういうエピソードは毒親には入らない。

例えるなら、1回汚水を流してしまったことと、長期間絶え間なく汚水を流し続けることの差だ。1回なら浄化できても、継続的になると浄化しきれなくなり沈殿し、その後も悪影響が続いてしまう。毒親のやっていることは環境汚染に等しい。

改めて見直してみると、この本の娘たちが親からされたことは、毒と言うほどのものなのか?という疑問が浮かぶ。

「罪深き女」の母親は精神疾患を抱えていたから毒親に当てはまるだろうけど、その他はせいぜいうるさい小言程度の話だ。マイディアレストの娘も親に言い返してはいるし、弓香も、母親のマシンガン説教を避けるために「ごめんなさい」で済ましていただけとも言える。

親に逆らっても大した問題にならなかっただろうし、或いは実際に大した問題になっていない。彼女たちは現実から目を背けたり、自分を悲劇のヒロインにするためだけに、親の失敗を永遠の罪として責め続ける。

その対比として登場するのが、真の毒親にまさしく人生を汚染されたマリアである。

理穂と弓香が対峙するシーンはちょっと無理やりというか説明的で、いちばんの盛り上がりではあるけどあまり入り込めなかった。最低レベルの環境にいる人じゃなければ声を上げてはいけない、というのも酷だなぁと思う。

一方で、実際は自分で対処できるレベルの人が苦しい苦しいと騒ぎ立てることで、本当に苦しんでいる人に助けが及ばないかも、という問題は、たしかに!と目から鱗だった。例えば、ウツなんだよねぇと怠けて白い目で見られている人のそばでは、本当の鬱病の人も同じように白い目で見られてしまう。

もうひとつ、ただ頑張って子育てしているだけの親が、子どもの甘えで「毒親」に仕立て上げられる恐怖を初めて認識した。

“似非”毒親ストーリーはたくさん溢れている。当のわたしも、数年前は「親に一度も褒められたことがないから、自信をもてない」と愚痴っていた。でも、俯瞰してみれば、それは良くも悪くも親がわたしに与えた膨大な物事のうちのひとつに過ぎない。1個の悪い記憶をピックアップしてジロジロ眺めて愚痴っているのは、現実逃避で視野を狭めたほうが楽だからに過ぎない。

こんな子ども側の勝手な言い分が「毒親ブーム」に乗っかって正当化されたら、世の親たちはますます雁字搦めになってしまう。子どもを制御できない不器用な人たちは、逆に虐待に走ってしまうかもしれない。

ガチの毒親に苦しめられている人が大勢いるのは事実だ。サバイバーが顔を上げ声を上げることで、たくさんの人々に希望を与えるのは間違いないだろう。その声が「あ~流行りの毒親ね」と軽視されては本末転倒だ。

母を糾弾することを決めた弓香にそうだ頑張れ!とエールを送った読者に、被害者ストーリーに酔うことの浅はかさを突き付ける湊さん。

いやーな気分だけど、大事なことに気付かされる物語でした。

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